はじめに
「バックアップがあるから大丈夫」——その考えはもう通用しません。
近年のランサムウェアは「標的型」へと進化し、まず管理者権限を奪取してからバックアップごと暗号化・削除してきます。通常のバックアップでは復旧できないケースが増えています。
この状況に対抗する手段として注目されているのが「イミュータブルスナップショット」です。本記事では、この技術がランサムウェア対策として本当に有効なのか、限界点も含めて検証します。

結論から言うと「有効だが万能ではない」です。詳しく解説します👍
標的型ランサムウェアの攻撃手法
まず、なぜ従来のバックアップでは対策が難しくなったのか理解しましょう。
標的型ランサムウェアの攻撃は以下の流れで進みます。
- フィッシングメールや脆弱性を突いて企業ネットワークに侵入
- 数週間〜数ヶ月かけて内部を偵察、管理者権限を奪取
- バックアップサーバーにアクセスし、バックアップデータを削除・暗号化
- 本番環境のデータを暗号化
- 身代金を要求
ポイントは管理者権限を奪取してからバックアップを潰すという点です。通常のスナップショットやバックアップは管理者権限があれば削除できるため、この攻撃に対して無力です。
イミュータブルスナップショットとは
イミュータブル(Immutable)は「不変」という意味です。イミュータブルスナップショットは、一度作成すると保護期間中は管理者権限でも変更・削除ができないスナップショットです。
技術的な仕組み
イミュータブルスナップショットはWORM(Write Once Read Many)技術をベースにしています。WORMとは「一度だけ書き込み、何度でも読み取り可能」という記録方式で、改ざん防止機能として利用されています。
通常のスナップショットとの違いを表にまとめました。
| 項目 | 通常のスナップショット | イミュータブルスナップショット |
|---|---|---|
| 管理者による削除 | 可能 | 保護期間中は不可 |
| ランサムウェアによる削除 | 可能(権限奪取後) | 保護期間中は不可 |
| 保護期間 | なし | 1〜30日(製品による) |
| ストレージ効率 | 差分保存 | 差分保存 |
対応製品
イミュータブルスナップショットに対応している主な製品は以下の通りです。
- Synology NAS:DSM 7.2以降、Snapshot Replicationで対応(無料)
- NetApp ONTAP:SnapLock Complianceクロック機能
- Pure Storage:SafeModeスナップショット
- AWS S3:オブジェクトロック(WORM機能)
- Azure Blob Storage:不変ストレージ

Synologyなら追加費用なしで利用できるのが嬉しいポイントです💡
ランサムウェア対策として有効な理由
イミュータブルスナップショットがランサムウェア対策として有効な理由を、攻撃の流れに沿って説明します。
通常のバックアップの場合
- 攻撃者が管理者権限を奪取
- バックアップサーバーにアクセス
- バックアップデータを削除・暗号化 ← 成功
- 本番データを暗号化
- 復旧手段なし → 身代金を払うしかない
イミュータブルスナップショットの場合
- 攻撃者が管理者権限を奪取
- バックアップサーバーにアクセス
- スナップショットを削除しようとする ← 失敗(保護期間中は削除不可)
- 本番データを暗号化
- イミュータブルスナップショットから復旧可能
このように、管理者権限を奪われても保護期間内のスナップショットは削除できないため、確実な復旧ポイントを確保できます。
限界と注意点
イミュータブルスナップショットは有効な対策ですが、万能ではありません。以下の限界と注意点を理解しておく必要があります。
1. 物理障害には無力
スナップショットは論理バックアップです。同一筐体内に保存されるため、ストレージ自体が故障した場合はスナップショットも失われます。
物理障害に備えるには、別筐体へのレプリケーションや、遠隔地へのバックアップが必要です。
2. 保護期間の罠
イミュータブルスナップショットの保護期間は通常7〜30日です。保護期間を過ぎたスナップショットは削除可能になります。
標的型ランサムウェアは数週間〜数ヶ月潜伏することがあります。潜伏期間中に保護期間が切れてしまうと、攻撃時にはすでに削除可能な状態になっている可能性があります。
3. 物理攻撃への脆弱性
イミュータブルスナップショットはソフトウェアレベルでの保護です。HDDを物理的に取り出してフォーマットすれば、すべてのデータが消去されます。
内部犯行や物理的なアクセスが可能な状況では、この保護は意味をなしません。
4. 復元の粒度
スナップショットからの復元は「ある時点への巻き戻し」です。特定のファイルだけを柔軟に復元したい場合には向いていません。
ファイル単位の復元が必要な場合は、通常のバックアップソフトウェアとの併用を検討しましょう。

「これだけで安心」は危険です。多層防御の一部として活用しましょう⚠️
推奨される運用方法
イミュータブルスナップショットを効果的に活用するための運用方法を紹介します。
保護期間の設定
保護期間は7〜14日が推奨されています。潜伏型攻撃を考慮すると長めに設定したいところですが、ストレージ容量とのバランスも必要です。
Synologyの場合、保護期間は最大30日まで設定可能です。
遠隔地レプリケーションとの併用
物理障害や災害に備えて、遠隔地のNASにもイミュータブルスナップショットを作成することを推奨します。
SynologyのSnapshot Replicationは、VPN接続された別のSynology NASにスナップショットを複製できます。複製先のスナップショットもイミュータブルに設定することで、ランサムウェア対策と災害対策を同時に実現できます。
多層防御の構築
イミュータブルスナップショットは多層防御の一部として位置づけましょう。以下の対策と組み合わせることで、より強固なセキュリティを実現できます。
- 多要素認証(MFA):管理者アカウントへの不正アクセスを防止
- エアギャップバックアップ:ネットワークから隔離されたバックアップ
- 侵入検知システム:不審な動きを早期に検知
- 通常のバックアップ:ファイル単位の復元に対応
Synologyでの設定方法
参考として、Synology NASでのイミュータブルスナップショット設定手順を紹介します。
- パッケージセンターからSnapshot Replicationをインストール(無料)
- Snapshot Replicationを開き、保護する共有フォルダを選択
- 「スナップショット」→「スナップショットの作成」を選択
- 「イミュータブルスナップショットを有効化」にチェック
- 保護期間(7〜14日推奨、最大30日)を入力
- 「OK」をクリック
既存のスナップショット設定も、後からイミュータブルに変更できます。

設定自体は簡単です。まずは重要なフォルダから始めてみましょう🚀
まとめ
| 項目 | 評価 |
|---|---|
| 標的型ランサムウェアへの有効性 | ◎ 管理者権限を奪われても削除不可 |
| 物理障害への対応 | × 同一筐体内のため無力 |
| 潜伏型攻撃への対応 | △ 保護期間の設定に依存 |
| 導入コスト(Synologyの場合) | ◎ 追加費用なし |
| 運用負荷 | ◎ 設定のみで自動運用 |
結論:イミュータブルスナップショットはランサムウェア対策として有効です。ただし、万能ではありません。
物理障害には無力であり、保護期間を過ぎれば削除可能になります。「これだけで安心」ではなく、多層防御の一部として活用することが重要です。
Synology NASを利用している場合は追加費用なしで導入できるため、まずは重要なフォルダから設定してみることをおすすめします。

バックアップは「取っているから安心」ではなく「復旧できるから安心」です。定期的な復旧テストもお忘れなく👍


コメント